医院開業コラム 2026.09.11

診療圏調査とは?方法と結果の見方、クリニック開業の立地選びのポイント

クリニックの開業候補地を検討するとき、その場所でどのくらいの患者数を見込めるかを数字で確かめる方法が診療圏調査です。人口や競合の状況を調べないまま立地を決めると、開業後の集患計画そのものが揺らぎかねません。

本記事では、診療圏調査で何がわかるか、診療圏の設定から推計患者数の計算までの手順、調査結果を読むときの注意点を解説します。北海道で開業地を検討している医師に向けて、数字だけに頼らず現地確認で補うポイントもまとめました。

診療圏調査とは?開業候補地の患者数を推計する調査

診療圏調査とは、開業候補地の周辺にどのような人がどのくらい住んでいるか、同じ診療科の医療機関がどこにあるかを調べ、その場所で見込める1日あたりの外来患者数(推計患者数)を算出する調査です。開業候補地を「なんとなく人通りが多いから」ではなく、数字で評価するための材料になります。

診療圏調査でわかることは、大きく次の3つです。

わかること内容
推計患者数候補地で1日に見込める外来患者数の目安
診療圏の人口特性人口の総数、年齢構成、世帯構成、昼間人口と夜間人口の差
競合医療機関の状況同じ診療科の医療機関の数、位置、診療時間や休診日

このうち推計患者数は、後述するとおり一定の前提を置いた計算値です。数字そのものよりも、複数の候補地を同じ条件で比較し、根拠を持って立地を選ぶために使う、という位置づけの数字です。

診療圏調査を行うタイミング

診療圏調査は、開業のおおむね18〜12ヵ月前、診療コンセプトを固めて開業地を選ぶ段階で行います。物件の契約や設計を進めた後に候補地の問題が見つかると、後戻りが難しくなるためです。

このとき、候補地を1か所に絞ってから調べるのではなく、複数の候補地を同じ条件で調査して比較すると、それぞれの強みと弱みが数字で見えてきます。開業までの全体の流れは「クリニックの開業スケジュールと準備」の記事で解説しているので、あわせてご覧ください。

診療圏調査は誰が行う?依頼先と無料でできる範囲

診療圏調査は、開業支援を行う会社や金融機関などが簡易的な調査を無料で提供しており、開業準備の初期段階ではこうした簡易調査を入口にするのが現実的です。また、政府統計の総合窓口(e-Stat)の「jSTAT MAP」を使えば、候補地を中心とした半径圏の人口を自分である程度確認することもできます。

ただし、無料の簡易調査は診療圏の範囲や計算の前提が画一的で、候補地ごとの事情までは反映されません。最終的な立地判断では、簡易調査の数字を出発点に、現地の確認や開業支援の専門家による分析を組み合わせる必要があります。パルテクノでも、開業支援の入口として診療圏調査・開業地選定に対応しています。

診療圏調査の方法|5つのステップで進める

診療圏調査の5つのステップ。候補地とコンセプトの整理、診療圏の範囲を設定、人口データを調べる、競合医療機関を調べる、推計患者数を計算
診療圏調査は5つのステップで進めます

ここからは、診療圏調査を進める手順を5つのステップに分けて解説します。実際には調査会社やツールが自動で計算する部分も多いのですが、手順と考え方を知っておくと、受け取ったレポートの前提を自分で確かめられるようになります。

ステップ1 開業候補地と診療コンセプトを整理する

最初に決めるのは、調査の前提となる診療科と診療スタイルです。同じ場所でも、内科と整形外科では対象になる患者層が違い、診療圏の広さも変わります。生活習慣病の継続通院を軸にするのか、専門外来で広い範囲から患者を集めるのかといったコンセプトを先に整理し、そのうえで候補地を複数挙げます。

ステップ2 診療圏の範囲を設定する

次に、患者がどの範囲から来院するかという診療圏を設定します。設定の方法は、候補地を中心に半径で区切る同心円方式と、車での到達時間で区切る方式の2つが基本です。クリニックの場合は半径1〜2km程度を目安に、診療科や地域の実情に合わせて調整します。

ここで注意したいのが、地域の移動手段です。徒歩や自転車、電車での通院が中心の都市部と違い、北海道では車での通院が前提になる地域が多くあります。こうした地域では、距離の同心円よりも「車で5分・10分」という到達時間で診療圏を考えるほうが、実際の来院範囲に近づきます。

ステップ3 診療圏内の人口データを調べる

診療圏の範囲が決まったら、その中に住む人口を調べます。基礎になるのは国勢調査などの公的統計で、前述のjSTAT MAPを使うと、指定した地点の半径圏の人口や年齢構成を無料で集計できます。

このとき、夜間人口(住んでいる人)と昼間人口(日中にいる人)の違いも確認します。オフィス街であれば日中の勤務者が、住宅地であれば居住者が患者層の中心になるため、候補地の性格に合った数字を見る必要があります。

ステップ4 競合になる医療機関を調べる

続いて、診療圏内にある同じ診療科の医療機関を調べます。厚生労働省の「医療情報ネット(ナビイ)」は、医療機能情報提供制度に基づいて2024年4月から全国統一で運用されている検索システムで、地域と診療科目から医療機関を検索できます。

調べた医療機関は、地図に位置を落とし込み、診療科目、診療時間、休診日まで一覧にしておきます。この一覧が、後で競合の実態を評価するときの土台になります。

ステップ5 推計患者数を計算する

最後に、集めたデータから推計患者数を計算します。基本の計算式は次のとおりです。

推計患者数 = 診療圏内人口 × 受療率(人口10万対) ÷ 100,000 ÷(競合医療機関数 + 1)

受療率とは、人口10万人あたりで1日にどのくらいの人が医療機関を受診しているかを表す数値で、厚生労働省の「患者調査」で公表されています。最新の令和5年調査では、全国の外来受療率は人口10万対5,850、北海道は5,331です。

具体的なイメージを持てるよう、令和5年患者調査の数値を使った仮定の計算例を示します。

項目仮定例
診療圏内人口20,000人
外来受療率(全国・人口10万対)5,850
診療圏内で1日に外来を受診する人数の目安20,000 × 5,850 ÷ 100,000 = 1,170人
うち循環器系の疾患(受療率677)で受診する人数20,000 × 677 ÷ 100,000 = 約135人
同じ診療領域の競合が3院ある場合の自院分135 ÷(3 + 1)= 約34人/日

実際の調査では、全診療科合計の受療率ではなく、性別・年齢階級別や傷病分類別の受療率を診療科に合わせて使い分けます。傷病分類と診療科は完全には一致しないため、専門の調査会社は独自の係数やデータベースで精度を高めています。この例は、あくまで計算の仕組みを示すための仮定例です。

診療圏調査の結果の見方|推計患者数だけで立地を決めない

晴天の住宅街の道路
数字の確認とあわせて、候補地周辺を実際に歩いて確かめます

診療圏調査のレポートを受け取ったら、推計患者数の大小だけで候補地の良し悪しを判断しないことが大切です。ここでは、結果を立地判断につなげるための4つの見方を紹介します。

推計患者数を事業計画と突き合わせる

まず、推計患者数が「経営が成り立つ水準か」を確かめます。想定する診療単価と1日あたりの患者数から売上の目安を出し、人件費や家賃、借入の返済を含めた費用と比べて、損益分岐点を上回れるかを見ます。推計患者数が多くても、家賃や建築費の高い立地では必要な患者数も増えるため、数字はセットで評価する必要があります。開業資金や事業計画の考え方は「クリニック開業に必要な資金」の記事で詳しく解説しています。

人口の年齢構成と診療科の相性を見る

総人口が多くても、年齢構成が想定する患者層とずれていれば、実際の来院にはつながりにくくなります。小児科であれば子育て世帯、整形外科や循環器内科であれば中高年層の人口を確認します。あわせて、周辺で宅地開発が進んでいるのか、人口が減り高齢化が進んでいるのかという増減の傾向も見ておくと、開業後5年・10年の患者層を考える材料になります。

競合は数ではなく中身を見る

簡易調査のレポートに載る競合医療機関数は、診療科目の届出をもとにした機械的なカウントです。同じ「内科」でも、専門領域や診療内容が自院と重なるかどうかで、競合としての強さはまったく違います。

そこで、ステップ4で作った一覧をもとに、診療内容の重なり、診療時間と休診日、院長の専門性を個別に確認します。競合数が多く見えても診療内容の住み分けができている場合もあれば、数は少なくても地域で長く信頼を集める医療機関と正面から競合する場合もあります。

数字に表れない情報は現地で確かめる

最後に、データではわからない情報を現地で確認します。見るべきポイントは、人の流れと通いやすさです。

  • 通勤や買い物の生活動線が候補地の前を通っているか
  • 通行する道路のどちら側にあるか、車からの視認性はよいか
  • 駐車場は入りやすく、台数は足りているか

北海道であれば、これに冬の条件が加わります。積雪時に駐車場へ出入りしやすいか、除雪で建物や看板が見えにくくならないか、冬の通院手段が変わらないかは、雪のない季節の調査だけでは見落としやすいポイントです。曜日や時間帯を変えて複数回、候補地の周辺を実際に歩いて確かめることをおすすめします。

診療圏調査の3つの注意点

診療圏調査は立地選びに欠かせない調査ですが、万能ではありません。使ううえで知っておきたい注意点を3つにまとめます。

調査条件しだいで結果は変わる

診療圏の範囲を広く設定すれば、診療圏内人口が増え、推計患者数は大きくなります。しかし、実際の患者が遠方から通ってくれるとは限らないため、範囲を広げた調査結果は実態から離れていきます。

レポートを見るときは、診療圏の範囲がどう設定されているか、人口や医療機関のデータがいつ時点のものかをまず確認してください。複数の候補地を比べるときは、同じ条件で調査をそろえることが前提です。

推計患者数は開業後の集患を保証しない

推計患者数は、開業時点の人口と競合の状況から機械的に算出した目安です。実際の来院数は、診療の内容や評判、開業後の情報発信によって変わります。調査結果が良好でも、それだけで患者が集まるわけではなく、開業後の取り組みは別に必要です。

反対に、推計がやや厳しくても、競合との住み分けや診療時間の工夫で成立する場合もあります。調査は「落とし穴を避けるための確認」と考えるのが実態に合っています。

規制や地域の制度もあわせて確認する

開業候補地の評価には、患者数の推計以外の確認事項もあります。2026年4月に施行された開業規制により、地域によっては新規開業の手続きに影響が出るため、候補地がどの区域にあたるかの確認が欠かせません。規制の内容は「クリニックの開業スケジュールと準備」の記事で解説しています。

また、北海道の一部の市町村には、クリニックの開業を支援する補助金・助成金があります。候補地を比較する際の判断材料の1つになるので、「北海道のクリニック開業 補助金・助成金まとめ」の記事もあわせてご確認ください。

パルテクノの診療圏調査・開業地選定サポート

パルテクノでは、クリニック開業支援の最初の段階として、診療圏調査と開業地選定のサポートを行っています。診療圏調査で推計患者数を把握することは、開業候補地の評価指標を知るうえでとても重要だと考えており、調査の結果をもとに、プランニング、設計・施工、資金調達や開業申請のサポートまで一貫して開業を支援する体制を整えています。

また、パルテクノは建築事業に加えて不動産事業も行っているため、候補地や物件についてもあわせてご相談いただけます。北海道での開業の進め方は、「さわき眼科・形成クリニックの開業事例」や「すみかわ皮膚科アレルギークリニックの開業事例」でも紹介しているので、開業地選定から施工までの流れをつかむ参考にしてください。

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まとめ|診療圏調査で開業候補地を数字と現地の両面から確かめよう

診療圏調査は、開業候補地で見込める患者数を推計し、立地を数字で評価するための調査です。診療コンセプトの整理、診療圏の設定、人口と競合の調査、推計患者数の計算という手順で進め、複数の候補地を同じ条件で比較することで、根拠を持った立地選びができます。

一方で、推計患者数はあくまで目安であり、年齢構成や競合の実態、生活動線や冬季の通いやすさといった現地の情報、開業規制や地域の制度とあわせて総合的に判断することが欠かせません。数字と現地の両面から候補地を確かめながら、開業準備を進めていきましょう。

パルテクノでは、診療圏調査・開業地選定からプランニング、設計・施工、開業後のサポートまで、北海道のクリニック開業を一貫して支援しています。開業予定の診療科と検討中のエリアを添えて、お問い合わせからお気軽にご相談ください。

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